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読んで損する楽しいブログ

『船乗りの、父の心は海のようには広くない』を読みました

さっくりと読めて、とっても素敵なエッセイをご紹介します。

『船乗りの、父の心は海のようには広くない』という本です。著者は渡部優美さん。映画と演劇と文学をこよなく愛する芸大生で、夢はさくらももこを超えるエッセイストなんだとか。この本を読んで思ったのですが、すでに超えているんじゃないかと。身の回りの出来事をどこか冷めた視点で書き出して、笑いに昇華させたり、ほっこりさせたり。ところどころに出てくる毒も、決して嫌味にはならずにスパイスとしてピリッと効いていて、文章を読んでて楽しくなります。

例えば、「消毒液を飲む」というエッセイの冒頭はこんな感じ。

私の父は、酒豪である。毎日大量の酒を摂取しては、飲みすぎてひっくり返っている。もうそろそろ死ぬのではないかと不安になるのだが、父は自称「一人前の酒飲み」らしいので、酒を取り上げたらそれはそれで死ぬのではないかとまた不安である。

酒を「摂取」と表現するところから、筆者が酒好きではないということがほんのりわかる仕掛けになっていて、こういう言葉の選び方がセンスの良さじゃないかなと思ったりします。酒を取り上げないと不安になると言っておきながら、酒を取り上げても不安という矛盾しまくっているけど、なんとなくわかる感情表現。なかなかこんなややこしい気持ちをこんな短い文章で表現できるもんじゃないです。

父親からお酒を飲まされるというだけの話なんですが、なぜかこれがとんでもない悟りを開くような話に展開していきます。そして、ぐわぐわ団でもよく使う「広げるだけ広げて投げっ放しジャーマン」を綺麗に堪能することができます。実に素晴らしい。「広げるだけ広げて投げっ放しジャーマン」の使い手が私以外にもいたとは!

この話の後には、くるくる寿司に行く親子のぎくしゃくとしたほっこり話、父親に感情移入してきたところで、ちょっとドキッとする話、51ページという薄い本ではあるのですが、地味ながらも味わいのある邦画を観たような感覚になります。

とにかく良い本ですので、興味のある方はぜひぜひ注文してみてください。

注文してみてください、というのには理由があります。この本はインディーズ作品とのことで、東京で買うか、ネットで注文するかで買うことができるのです。デパートの本屋さんでは今はまだ手に入れることができません。そのうち、できるようになるかもしれません。

というわけで、注文する場合はこちら。

seichi-shoten.com

表紙も素敵なので、ぜひ手に取ってみてください。紙に縦書きで印刷された文章を読むのはやっぱりよいものです。合掌。

 平成29年1月8日:追記

船乗りの、父の心は海のようには広くない (グレイプス文庫)

船乗りの、父の心は海のようには広くない (グレイプス文庫)

 

 AmazonのKindle版もあります。

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