個人名を出すのはどうかと思ったのですが、藤井さんは全国でおよそ307,000人いるので、どの藤井さんなのかを特定するのは不可能だと判断し、あえて藤井さんという名前を出すことにしました。
この前、京都に行ったときのこと。祇園四条から出町柳まで行くのに電車に乗ろうとしたのですが、扉が開いたら藤井さんがどーんと入り口を塞いでいるのです。剣道の道着や竹刀などを手にしているので大変なのはわかるのですが、はっきり言います。邪魔です。
なぜ、藤井さんだとわかったのかと言うと、剣道の道着の袋にでかでかと「藤井」と刺繍がされていたからです。
私は藤井さんと面識はありませんし、どういう方なのかも知りません。どこに住んでいるのかもわかりませんし、おいくつなのかもわかりません。名前も知りません。ただ、苗字が「藤井」ということだけ、そして剣道の道着と竹刀を持って、入り口の前に立って微動だにしないのです。邪魔なのです。
祇園四条で降りる人はたくさんいます。藤井さんが入り口の3分の2を塞いでいるので、なかなか人が出られません。発車のベルが鳴ります。しかし、藤井さんが塞いでいるので、どうにもなりません。ぶっちゃけ、私はこの電車に乗れなかったとしても次の電車に乗ればよいので、さほど慌ててはいませんでしたが、降りる人は絶対に祇園四条で降りたいわけですし、乗りたい人もこの電車に乗りたいわけです。しかし、藤井さんが邪魔なのです。
おそらく、あの場にいた人たちみんなが「藤井さん、邪魔!」と思っていたことでしょう。誰も口にはしませんが、藤井さんが邪魔だったのです。
しかし、藤井さんはどこ吹く風。気にする様子もなく、一歩も動かず、詫びひとつ入れず、泰然自若としていました。ふてぶてしいと言う言い回しがしっくりくるような、肝っ玉が座っているというか、剣道をされているからでしょうか、滲み出る殺気を感じて、誰も文句を言う人はいませんでした。「邪魔やろが!」と言った瞬間に、面、小手、胴と3本取られる可能性もあったのです。
オチも特にありません。「邪魔です、藤井さん!」ってタイトルが何となく青年漫画のタイトルっぽくないですか?と思っただけです。合掌。