さくらももこさんが亡くなり、みりんさんが久しぶりにブログを書かれました。
さくらももこのエッセイが好きで好きで大好きだ!という気持ちがギンギンに伝わってくる熱い内容です。そんななか、さくらももこのエッセイ『焼きそばうえだ』についてこんなふうに書かれています。
『焼きそばうえだ』というエッセイがある。レビューを見ていただければわかるが、これまた評判が悪い。「植田さんは会社を辞めて自己破産した方が幸せになれる!」と言ってのける彼女は中々に畜生である。しかし私はそんな彼女もまた好きだった。
この本を題材にビブリオバトル*1に挑み、愛ゆえにけちょんけちょんにした結果、みりんさんが見事優勝したという逸話が秀逸すぎます。
Amazonのレビューには星一つがわんさかあるし、レビューを見ても「二度とさくらさんの本は買いません」「ちびまるこちゃんの作者ってこういう人だったんですねえ。」「内容が中身ゼロだし小学生でも書けるようなくだらない本。」とか、本当に散々な書かれようです。
こんなの、読むしかないじゃないですか。評判が悪いせいか、何の苦労もせずに買えてしまいました。『もものかんづめ』は今じゃ入手困難だというのに……
裏表紙には本の内容が書かれています。少し長いですが引用します。
小学生の男子レベルのくだらない話を延々としゃべることを目的に結成された「男子の会」。ひょんなことから仲間の植田さんのためにバリでヤキソバ屋を始めることに…!? ヤキソバの研究、看板描き、現地での交渉…と、開店までの数々の難題に、著者自らが全力投球。「車内から外の景色を見ていると、路上で直接火を燃やして何かを焼いて売っているような人もちらほらいたりして、最悪の場合は自分達もああいう売り方をしなくてはならないかもなァ…と思ったが、まさかそこまで最悪な事にはなるまいとも思った。」(「苦戦」より)テーマは友情…なのに爆笑!! さくらももこが贈る、冗談のような本当の話!!
これだけを読むと、めちょんこおもしろそうに思えるんです。
そして、実際におもしろかったです。話の内容自体はむちゃくちゃです。
飄々とした文体は『もものかんづめ』から変わることなく、畜生どころか人でなしのろくでなしなことをさらりと書いてのける胆力と文章力。金持ちになったがゆえに、歪んだかたちでパワーアップしていました。でも、別に背伸びをしているわけでもなく、金持ちになったがゆえに、金持ちのままの等身大の姿で書いているのです。
Amazonのレビューを読んでいて感じたのは、さくらももこを聖人君子か何かと勘違いしていないかと。国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」の作者なんだから、描いている人も素晴らしい人だと思いこんではいないかと。藤子・F・不二雄先生のように、ものすごい人格者な漫画家もいらっしゃいますが、漫画家全員がそんなわけないのです。かわいい絵でオブラートに包まれた漫画と違い、文章というのは人間性がどろどろと滲み出てくるので、好きな人は好きだけれど、嫌いな人はめっちょこ嫌いと、好みがはっきり分かれてしまうのです。
だから、さくらももこは素晴らしい人だと思い込んでおきたい人には、さくらももこのエッセイを読むのはオススメしません。下手すりゃ絶望しますから。
でも、「ちびまる子ちゃん」の中でも、永沢君の扱い方なんてのは非道極まりなかったりするんです。『永沢君』という漫画でも、永沢君はそりゃあもうヒドい扱いようです。そして、ちびまる子ちゃんだって、決してよい子ではありません。「ちびまる子ちゃん」も本当は決して毒のない万人ウケするようなマンガではないのです。
さて、『焼きそばうえだ』ですが「冗談のような本当の話!!」みたいな売り方をするからバッシングを受けるんです。現代おとぎ話、フィクション、与太話、そんなもんだと思って読んでみると、ひどいけどおもしろい。中途半端に実在しているっぽい人を登場人物にしているから、パワハラだのなんだのとわけのわからないバッシングを受ける羽目になってしまったのではないかと思うのです。
文章、特にエッセイは人間性がどろどろと滲み出てくると書きましたが、聖人君子のエッセイなんて面白くもなんともないです。聖人君子のエッセイが読みたければ、それこそ論語でも読んでいたらいいんです。もしくは、ぐわぐわ団を読むのもよろしい。
さくらももこの文章を読ませる力はめちゃくちゃすごいんです。そして、なんだかな〜な人間性もおもしろいのです。やきそば学会の会長に会いに行き、眠たくて舟を漕いでいたとか、普通なら書きません。それを書いちゃうところがすごいのです。そして、このことをマナー違反の常識はずれと考えるか、自分もこんなことがあった、自分だけじゃないんだとほっとするかは、人それぞれです。
この前も引用しましたが、
私は自分の感想や事実に基づいた出来事をばからしくデフォルメする事はあるが美化して書く技術は持っていない。それを嫌う人がいても仕方ないし、好いてくれる人がいるのもありがたい事である。
これが全てです。『焼きそばうえだ』はこんなことを考えさせてくれる本でした。
正直なところ、オススメするかといえばかなり微妙です。ただし、私はおもしろいと思いました。合掌。
▼さくらももこのエッセイの後継者として活躍して頂きたいみりんさんのブログはこちらです▼
*1:オススメ本を紹介しあい、たくさんの人に紹介した本を読んでみたいと思わせた人が勝ちというゲーム。