おっさんのえずき相談センターのコールセンターには専門のスタッフ30,000人が24時間常駐して相談に応じる体制となっている。そして、今日もひっきりなしに電話が鳴り、止まる気配すらない。新人のオペレーターである江月悦子(えづきえつこ)は半年の研修を終え、今日が初めての電話受付、いわゆる「実戦」である。悦子の緊張は頂点に達しようとしていた。
「はい、おっさんのえずき相談センターです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
研修で何度も繰り返したフレーズ。この最初の一言の印象で電話の向こうの相手の反応が違ってくる。冷たく聞こえてはいけない、礼を失してはいけない、相談に応じてもらえるという安心感を相手に伝えるようにしなければいけない、ないない尽くしで大変だが、それだけ最初の一言が重要なのである。
そもそも、この「おっさんのえずき相談センター」は、とあるしょうもないブログの記事を読んだ国会議員の重鎮の鶴の一声で設立が決まったという。確か、ぐわぐわ団というブログだったはずである。あまりにもしょうもないことばかり書いているので誰も見向きもしないブログなのだが、ネットに疎い原始人のような国会議員の重鎮がついうっかりぐわぐわ団を読んでしまい、おっさんのえずきの相談を一手に引き受ける機関が必要であると思い込んだ結果、とんとん拍子に話が進み、センターの設置が決まったのである。
悦子は相手の言葉に耳をすませた。
「隣のマンションでおっさんがえずいているんです……」
「かしこまりました。それでは失礼致します。」
分厚いマニュアル通りの応対で、相手が何かを言う前に電話を切った。後ろから相談センターの課長がにやにやしながら近づいてきた。悦子はどうにもこの課長が苦手である。
「江月さん、初めてにしてはよかったと思うよ。」
「ありがとうございます。」
「相談センターとはいえ、本当に相談されても困るからね。医者もいないし、人手も予算もない。このコールセンターには専門のスタッフが3万人いるけれど、電話の応対だけで手一杯だからね。あ、また電話がかかっているよ、早く出てね。」
「はい、おっさんのえずき相談センターです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「隣のマンションでおっさんがえずいているんです……」
また、同じ相談だ。悦子はこの仕事に軽い不安を覚えた。
……なんとなく星新一のショートショートっぽく書いてみたのですが、何を書いているのか、自分でもさっぱりわかりません。とりあえず合掌。