映画館を出て外の景色を見た時に、心底ホッとしました。映画に入り込んでしまって、戻ってくるまでにものすごく時間がかかりました。いつもと変わらない梅田の景色が嬉しく思えました。この映画、メンタルが弱っている時に見ると、打ちのめされてエラいことになります。それぐらい、ぐわぐわします。
ほのぼのとした雰囲気が映画を支配しています。戦時中とはいえ、ほとんどのシーンでほのぼのしているんです。主人公・すずの持っている雰囲気がそうさせるのでしょうか。時が経つにつれて、どんどん戦争は激化します。でも、ほのぼのとした日常が紡がれていきます。戦争も日常の一部として溶け込んでいるんです。戦争中だからといって特別ではありません。人はごはんを食べ、洗濯をし、生活をしています。当たり前と言えば当たり前なんですが、人の営みが常にあることを気付かせてくれます。
とはいえ、この映画の舞台は戦時中です。理不尽なことが起こります。でも、この映画に悪者はいません。やるせない気持ちだけがじんわりと心に残ります。何が悪いといえば、戦争という異常な状況が作り出す世界が悪いとしか言いようがないんです。誰も悪くありません。悪くないから、どこにも気持ちの持っていくところがない。メンタルが弱っているときに見ると、打ちのめされてエラいことになるのはこの点です。やるせなさがぐるぐる心の中に残り続けます。何度も言いますが、この映画に悪い人はでてきません。みんな、いい人です。だからどうしようもない。
私が小学1年生の時、8月6日の原爆記念日に登校し、平和教育だからという理由で、広島の原爆の被爆者の写真を体育館でスライドでじゃんじゃか見せられました。知識もなんにもない子どもにムチャをするものです。おかげで原爆は怖いというトラウマを植えつけられました。何がどうなって原爆が落ちることになったのか、そんなことは一切わからず、ただただ原爆は怖いというだけ。明日、原爆が落ちてくるかもしれない。明後日、水爆が落ちてくるかもしれない。理由もなく怖がらせてどうするんだと、今になったら思います。
話を戻しますと『この世界の片隅に』は、私の受けた無茶苦茶な平和教育なんかよりずっと、今が平和で良かったねと思える映画です。平凡な日常の中に戦争という異常が入り込むことによる理不尽なやるせなさが、少なくとも今の日本にはない。もちろん、突発的な事故などで理不尽なことはいっぱり起きていますが、少なくとも戦争という状況ではないことに、ものすごく感謝したい。そんな感じです。
じんわりとした感想になりましたが、素晴らしい映画でした。合掌。